地震や台風、洪水などの自然災害の被害を最小に抑えるには、事前の準備である「防災」が非常に重要です。
防災において地域ごとの特性が重要な要素となるため、GISを活用する場面も多数存在します。
この記事では防災分野におけるGISの活用事例をお伝えしつつ、よく利用されるオープンソースや取り扱いの注意点、森林管理での応用について解説します。
目次
防災分野におけるGISの活用事例
時系列や地理情報が重要となる防災分野ではGISが活かせる場面が多く、特に以下のような事前の対策やシュミレーションの場面で利用される場合が多いです。
- ハザードマップ
- 災害史の把握
- 3Dマッピング
それぞれについて以下に詳しく解説します。
ハザードマップの作成
ハザードマップとは災害が起こりうる可能性のある場所や避難所の位置、避難経路について地図上に可視化したものです。
被害に遭う地域をあらかじめ想定することで、災害が起きた時の行動が明確になり防災に役にたつことが期待されています。
様々な種類があることも特徴で、同じ地域でも災害に合わせて様々な地図が用意されています。
例えば以下のような地図があります。
- 洪水による浸水被害や土砂最大
- 地震の被害想定
- 火災発生予測
- 避難所の場所
幅広い災害に対応できることことから、近年は国や自治体がハザードマップの作成・公開に力を入れるようになっています。
配布方法としては紙媒体やPDFで配る静的なマップの他、Web上で公開している動的なマップも存在します。
Web上で公開しているマップを利用すると範囲や縮尺によって、自宅周辺など見たい情報の詳細を呼び起こすことも可能です。
例えば国土交通省関東地方整備局荒川下流河川事務所が提供しているハザードマップでは、荒川が洪水した際にどの程度まで浸水するのかをESRIのシステムベースでWeb上で公開しており、自宅周辺が影響を受けるかを詳しく見れるようになっています。
また後述するオープンデータも幅広く揃っているので、QGISやArcGISを利用している方であれば、地図ソフトを用いて自宅や会社周辺のハザードマップ作成を簡単に行うことも可能です。
是非とも試してみてください。
災害史の把握
地震による液状化現象や大雨による土砂災害などの被害が大きくなると、過去に「沼」や「谷」という地名が使われていた、昔は湖沼や海だった、など過去の地名や土地利用に注目する意見が度々メディアで紹介されます。
また大きな災害が起きた際には、その地域で起きた過去の地震被害も振り返られることも多くあります。
2011年に東北地方太平洋側を襲った東日本大震災の時には、平安時代前期・869年に発生し三陸を襲った貞観地震を振り返る報道を耳にした方も多かったのではないでしょうか。
このような過去の災害を分析することで現代の防災につなげる動きは、メディアでの紹介もありますます注目を集めています。
GISソフトでは過去の地図データと現在の地図データを組み合わせることで土地利用や地名の変遷が比較しやすくなるため、災害の歴史を探る際にも頻繁に使われ、国や自治体も幅広い種類のGISデータを公開しています。
例として東海地震や南海トラフ地震といった太平洋沖での巨大地震とそれに伴う津波が襲うと想定されている静岡県は、Web上で公開しているGISの中に江戸時代に起きた安政東海地震によって発生した津波の想定浸水域を公開しています。
これを現在想定されている津波想定域や津波災害警戒区域と合わせて比較することで、住民が自分の住んでいる地域の津波被害の大きさについてより想像しやすい仕組みになっています。
3Dマッピング
防災の地理空間データを分析する際には、津波や洪水などを考えると土地の標高や建物の高さの観点も重要となります。
その際によく利用されるのが建物や土地の高さを立体的に表した3Dマップです。
GISでは、以下のような航空機や人工衛星などを用いたレーザー測量や写真測量によって入手したデータを用いることで、高さを考慮した分析が可能となります。
- DEM(Digital Elevation Model、数値標高モデル):地表面の高さを表現
- DSM(Digital Surface Model、デジタル表層モデル):建物や樹木の高さを表現
これらのデータを用いて作成した結果はQGISやArcGISなどのGISソフトで表現可能な他、国土交通省が提供する3DマッピングツールPLEATEAUなど専用ツールを用いてWeb上で公開する例も現れています。
防災で使える地理空間のオープンソース
防災分野についてはGISによる対策が重要視される分野でもあるため、インターネット上で公開されているオープンデータが多数存在します。
以下が代表的な例で、国土数値情報のサイトより無料ダウンロード可能です。
- 津波浸水想定
- 高潮浸水想定区域
- 土砂災害警戒区域
- 土砂災害危険箇所
- 避難施設
- 災害危険区域
- 平年値(気候)メッシュ
ポリゴン・メッシュなど単位は様々なので、利用したい内容に応じて利用しましょう。
また災害データ独自ではありませんが、自宅や所有する土地の情報を探るためのジオコーデインングやネットワーク解析による避難経路の確認などに道路などのインフラデータを利用することも多いです。
そのほか各自治体もGISデータを提供している場合が多いので、分析したい地域に応じて確認するようにしましょう。
GISソフトで用いるときの注意点
防災分野はオープンソースが充実しているものの、その分様式が提供元によって異なることが多く、そのままではQGISなどのソフトに取り込めないことも珍しくありません。
特に災害史を分析する場合は、現在とは測地系や座標系が異なる古い地図を使うこともあり、いくつか空間データを重ねると同じ場所を表しているのにずれが生じているということが頻繁に起きます。
そのためGISのソフトにデータを取り込むときは、分析のベースにしている地図(国土地理院、Open Street Map、Google Mapなど)と同じ座標系・測地形・座標参照系となっているかを確認し、可能であれば統一するように進めてください。
森林災害におけるGIS分析の重要性
森林火災や土砂崩れなど森林を襲う自然災害は、現地での対策がしにくいことから甚大な被害をもたらしやすく、下流地域や海上など広範囲に渡って影響が及ぶことが予想されています。
そのため土地の地質や傾斜、過去の土地利用など幅広いデータを入手して地理空間分析を行う必要があります。
しかし森林災害の分野は洪水や地震などと比べると公開データに乏しく、また専用のソフトが必要になることも多いため、プラグインの導入に莫大な時間がかかる、PCがMacなので使えないなど分析がしにくいのも事実です。
当社が開発したWebGISアプリケーション「森林マップ」は、ブラウザ上で誰でも無料で利用でき、森林災害の分析にも活用できます。
mapry森林マップについて:https://mapry.co.jp/map/
例えば傾斜分布図と地質図、樹種ポリゴンを重ね合わせ、エリアごとに地質データや立木密度などの森林資源データを確認することができます。
これらのデータから表層崩壊・深層崩壊の危険度を把握し、崩壊防止機能を高めるための適切な施業計画を立てるといった活用ができます。
※現在、地域によって表示できるデータに限りがあります。
詳しく知りたい方は当社お問い合わせページよりお問い合わせください。
まとめ
避難所の場所や浸水区域、過去の土地利用や災害発生域など様々な地理空間データを用いて分析できるGISは、災害対策に重要な役割を持っています。
自宅や職場の周りなどの防災対策として、是非ともオープンデータを用いて分析してみてください。
参考文献
中島円「その問題、デジタル地図が解決しますーはじめてのGIS」ベレ出版2021年出版、p177〜185, p201~213
ESRIジャパン「ハザードマップ|GIS基礎知識」https://www.esrij.com/gis-guide/maps/hazard-map/ (2024年3月4日取得)
静岡県「静岡県GIS」https://www.gis.pref.shizuoka.jp/?z=12&ll=34.933747%2C139.084119&t=roadmap&mp=11001&op=70&vlf=0004bfffffc0000000000040 (2024年2月29日取得)
国土交通省関東地方整備局荒川下流河川事務所「荒川3D洪水浸水想定区域図 ~3D洪水ハザードマップ~」https://experience.arcgis.com/experience/a14b9a7cee8943889babc2096f5a5fe7/ (2024年2月29日取得)
公益社団法人日本都市計画学会「関東大震災に関する情報のGISデータ化・活用プロジェクト」https://www.cpij.or.jp/com/rev/kantoearthquake-gis.html (2024年2月29日取得)
アジア航測株式会社・株式会社建設技術研究所・日本工営株式会社「災害リスク情報の3D可視化」国土交通省PLETEAU https://www.mlit.go.jp/plateau/use-case/uc20-011/ (2024年3月4日取得)
国土交通省「国土数値情報ダウンロードサイト」https://nlftp.mlit.go.jp/ksj/ (2024年3月2日取得)