治水地形分類図:過去の状況から水害リスクを確かめる
GIS応用

治水地形分類図:過去の状況から水害リスクを確かめる

蛇行や氾濫などの自然現象、埋め立てなどの人間の開発により次々と移り変わっていく河川の流れ。

かつて川であった場所は土地が低く水が溜まりやすい、土壌に水分が溜まっているなどの理由から大雨などの災害に弱く、大きな被害を受けることも珍しくありません。

しかしそのような場所を目視や地図で確認するのは容易ではありません。

そこで役に立つのが、治水対策を進める目的で作られた治水地形分類図です。

今回の記事はその概要や近年の活用状況、GISでの活用方法について簡単に解説します。

治水地形分類図とは

治水地形分類図とは、治水対策を進める目的のもと、一級河川の流域の平野部を対象として、「地形分類」や「河川管理施設」を表示した地図のことです。

以下のような情報を取得することで、作成されます。

  • 地形判読・地形分類:旧版地図や空中写真などを活用し、川の流れの作用でできた地形(扇状地・自然堤防・旧河道など)と人工的に作られた地形(盛土、切土など)を判読し分類する
  • 地形分類の適否:有識者による判定委員会で上記の情報を判定
  • 河川管理施設(堤防、河川工作物など)の位置:河川管理者の管内図などから取得

調査したい地域の治水地形分類図を活用することで、土地の成り立ちがわかり、地震や水害が起こった際の自然災害リスクを把握することができ、治水対策に生かすことができます。

例えばかつて川が流れていた地形である旧河道は周囲より土地が低いために水が集まりやすく、軟弱地盤であることが多いです。

そのため洪水による浸水被害や地震による液状化被害が予想され対策が必要となります。

しかし旧河道はタワーマンションが立ち並ぶ首都圏の人気住宅街や駅前の交差点などでも見られ、それらの場所では舗装などで全く見えないことも珍しくありません。

実際2019年に発生した台風19号では首都圏でも多摩川沿いで浸水被害が相次ぎましたが、被害にあった東京都内や川崎市の15カ所中13カ所に旧河道が見られていました。

また川崎市には旧河道沿いにできた自然堤防ができた場所も存在し、台風の時には周囲の水が旧河道にたまって水位が急激に高まった場所も存在しています。

令和元年の台風19号の時には、その場所の付近にあったマンションが最大2mまで浸水。

1階に住んでいた住民が亡くなる被害も出ています。

これらの過去を踏まえた地形情報はハザードマップに載っていないことも珍しくありません。

この事例のように、災害対策には地形に応じた対策をすることも重要であることが次第に明らかとなっています。

治水地形分類図による地形の状態の把握は、災害による被害をより軽減するには欠かせないものになっていると言えるでしょう。

次々と整備される治水地形分類図

治水地形分類図は国土地理院で順次整備が進められています。

令和2年度までに国が管理する区間の整備は完了。

国土地理院は現在上流部にある都道府県管理区間の整備を進めており、2024年3月にはその中で整備範囲が拡大された以下の5水系について公開されました。

  • 阿武隈川水系
  • 木曽川水系
  • 円山川水系
  • 六角川水系
  • 松浦川水系

今回整備された区間は昔から河川に関する自然災害に悩まされていた地域も少なくはありません。

参照:国土交通省国土地理院「治水地形分類図とは」p2

特に阿武隈川の治水地形分類図においては、上流の蛇行区間にわずかに高い土地(自然堤防)が形成されていたり、氾濫平野や旧河道など水が溜まりやすい場所が確認されています。

実際2019年の台風19号の影響で発生した大雨では、氾濫平野や旧河道が浸水し、自然堤防の周辺も被害を受けていました。

その状況は治水地形分類図に浸水推定図を重ね合わせることで明確にわかります。(上図参照)

このように治水地形分類図の地形図を活用すると、過去の自然災害の被害から重点的に対策するべき土地がわかるようになったり、自然災害のリスク把握や水害対策の優先順位づけに活かすことができます。

治水地形分類図を活用する方法

治水地形分類図を活用するのに便利なGISを2つ紹介します。

国土地理院のWebGIS

参照:国土交通省国土地理院「地理院地図(電子国土Web)」

国土地理院の電子国土Webのページでは各一級河川ごとの治水地形分類図を公開しています。

専用のGISソフトを使うことなく、現在と過去の河川の流れや流域の標高などの状況をブラウザ上で簡単に確認できます。

画面左側の「地図の種類」より「治水地形分類図」を選択して閲覧できるため、GISソフトでシェープファイルをインポートするという複雑な作業が不要です。

土地を購入する際など、その土地の水害リスクを把握したいときはぜひ活用しましょう。

mapryGIS

単に治水地形分類図を閲覧するだけなら電子国土Webでも十分ですが、計測データと重ねあわせたり、紙ベースの地図をトレースする必要がある際に便利なのがmapryGISです。

mapryGISは「mapry林業」や「mapry測量」などのアプリケーションと連携することにより、図面や計測データといった各種ファイルの入出力、帳票等の出力、点群データの閲覧などをブラウザ上で手軽に行うことができるWebGISです。

mapryGISには基本地図や空中写真、地質図など最初から表示できる地図が数種類あり、治水地形分類図もその1つです。

ここからは、mapryGISを使った水害リスク対策の方法を紹介します。

例として2024年2月にデータ追加された河川の一つである木曽川について、下流域である「弥富」の状況を見てみましょう。

まず、左上のマップレイヤを開き「治水地形分類図」を選択し、好みの透過度に設定します。

愛知県西部の「弥富」のエリアを拡大します。

すると現在の流域でなく、青い横線で描写されていた地形が多いことに気づきます。

その場所こそがかつて木曽川が流れていた旧河道であり、木曽川の流れがいかに変遷を重ねてきたかがよくわかる図になっています。

さらに拡大すると旧河道は現在住宅や水田として利用されておりかつて川であったことは分かりにくい地形になっていること、自然にできた堤防などの影響で高台のような場所も存在することがわかります。

このため大雨で非常に水が溜まりやすい地域ではあるものの、現地を見るだけでは分かりにくいため、普段から意識して排水対策を進めるべき地域と言えます。

実際古来より木曽川下流域の洪水対策は問題となっており、用水路の建設や河川改修などが近代改善から進められた地でもありました。

このように治水地形分類図を見ると意外な場所が水害の被害を受けやすいことがわかります。

不動産開発などの産業に関わる方は自分達が利用したい土地のリスク管理の際に一度見ておくことをおすすめします。

さらにmapryGISでは、「編集モード」にすることでポリゴンやマーカーを設置するといったCAD機能が使えます。

紙の地図をトレースして地域ごとの水害リスクを把握したり、リスクの高い地域を目視上わかりやくするなどご活用ください。

またmapryのスマートフォンアプリやLiDAR機器で計測したデータをインポートして表示することもできるので、測量した区域内の浸水リスクなどを把握するのにもご活用いただけます。

mapryGISについて詳しくはこちら

まとめ

治水地形分類図は過去の河川の流れと土地の利用方法の両方を1つの図として扱えるため、台風や津波、高潮などの水害対策を行うのに非常に便利なツールとなっています。

前述した国土地理院のページはWebGISなのでどなたでも使えます。

一級河川の近くに居住していて、台風などの被害などが気になる場合は是非とも活用してみてください。

参考文献

国土交通省国土地理院「流域治水の基礎資料となる「治水地形分類図」の整備範囲を拡大」2024年3月13日 https://www.gsi.go.jp/bousaichiri/bousaichiri61047.html(2024年4月2日取得)

国土交通省国土地理院「治水地形分類図からわかる自然災害リスクの例」https://www.gsi.go.jp/common/000256165.pdf(2024年4月2日取得)

国土交通省国土地理院「治水地形分類図とは」p2 https://www.gsi.go.jp/common/000256168.pdf(2024年4月2日取得)

NHK 「地図はいまも悪夢を知っている」NHK NEWS WEB 2020年10月21日 https://www3.nhk.or.jp/news/special/saigai/select-news/20201021_01.html(2024年4月2日取得)

国土交通省国土地理院「地理院地図(電子国土Web)」https://maps.gsi.go.jp/#15/35.124068/136.712236/&base=std&ls=std%7Clcmfc2&blend=0&disp=11&lcd=lcmfc2&vs=c1g1j0h0k0l0u0t0z0r0s0m0f1&d=m (2024年4月6日取得)

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