リノベーションやDIYで木材を使うなら、知っておきたいのが「吉野杉」です。
奈良県吉野地方で育ったこの木材は、きめ細かい木目と美しい通直さで知られ、DIY初心者からプロまで、幅広い用途で使用されています。
強度と見た目の美しさに加え、カビやウイルス抑制効果も実証されていることはご存じでしたでしょうか?
この記事では、吉野杉の魅力と、その特性を生かした3つの使用例を紹介します。
吉野杉に興味のある方は、ぜひ参考にしてください。
目次
吉野杉とは?

吉野杉は奈良県の吉野地方で生育されているスギを指します。
紀伊半島のほぼ真ん中に位置する吉野地方の気候は、雨は多いが雪は少ないというスギが生育しやすい環境です。
1500年代には吉野地方でスギの造林が行われた記録が残っているとされ、古くから林業が発展した地域でもあります。
吉野に生育していたスギの天然林は、大阪城などへの建築用材の提供を行ったとされていて、その後造林技術が発達し日本の中でもスギブランドとして確立されています。
日本を代表する材木「秋田スギ」の産地である秋田県は雪が多いため、雪害(雪で杉が折れたり曲がったりする)に悩まされます。雨が多く雪が少ない吉野地方は、まさにスギの育成に適した土地と言えますね。
吉野杉の特長
吉野杉の特長は、以下の通りです。
- 木目はきめ細かく通直な木材
- 一定以上の品質が保たれている
- カビやウイルスを抑える
ここでは、吉野杉の特長を紹介していきます。
木目はきめ細かく通直な木材

吉野杉の木目はきめが細かく通直です。
それは、ha当たり10,000本程度の植栽密度と多くの間伐回数によって生まれます。
一般的な造林密度がha当たり1,500〜3,000本程度と考えると、数倍の差があることがわかります。
密植であるため、年輪が細かくなるのです。
そして、健全に成長している個体を残しつつ間伐を繰り返すことで、収穫できる頃には通直で目の細かい吉野杉が完成します。
目が細かく通直であるため、強度の高いスギ材が収穫できます。
一定以上の品質が保たれている
吉野杉は奈良県地域材認証センターによる、「奈良県地域認証材」としての認証を受けているため、一定以上の品質が保たれています。
例えば、床材や壁材などであれば、以下のような基準が設けられています。
出典:奈良県地域材認証センター
建築用構造材についてもJIS(日本工業規格)に準拠した基準を設けており一定以上の品質が保たれています。
吉野杉は、強度や品質を必要とする建築用材として、数字の面からも保証されているのです。
カビやウイルスを抑える
住宅の壁材などにも用いられる吉野杉は、カビやウイルスを抑える効果があるとされています。
奈良県の「奈良の木で健康になる」実証事業によると、以下の効果が認められました。
- インフルエンザウイルスの不活性化
- カビの生育抑制
- 大腸菌の増殖抑制
- ダニの忌避(きひ:きらって避けること)
健康に暮らすためにも有用な吉野杉は、病院や老人ホーム、保育園の内装材として重宝されています。
吉野杉の良さを生かした使用例
ここでは、吉野杉の良さを生かして生産される使用例について紹介していきます。
【DIY素材】反りや狂いのなさを生かす
柔らかく加工のしやすい上に反りや狂いの少ない吉野杉は、DIYに使用する木材として最適です。
例えば本棚など一般的には重くなりがちな家具であっても、強度と軽量化を両立させ、持ち運びがしやすい作品に仕上がります。
材木店で購入する場合は、お店の人に用途に合わせたものを選んでもらうとよいでしょう。
初心者の方がDIYを始める際は、吉野杉はうってつけの素材と言えます。
板材などであれば、値段も入手しやすい価格帯となっているのが嬉しい点ですね。
【塀や外壁】腐りにくさを生かす
吉野杉の中でも樹齢が百年を超し、真ん中の心材が赤黒色とされている「吉野百年黒杉」は、「腐りにくい」「シロアリに強い」「カビが生えにくい」といった特長があるとされ、その効果は奈良県森林技術センターなどにより実証済みです。
その特長を生かし、風雨にさらされやすい建物の外壁や塀、ウッドデッキなどに用いられています。
公共施設の建築用材として用いられれば、環境に配慮したまちづくりが可能になることでしょう。
全国木材協同組合連合会では、外構部等の木質化対策支援事業などが行われていて、木のあるまちづくりが推し進められています。
参考:
【酒樽】香りを生かす

吉野杉から作られる木材にはすがすがしい芳香があり、その香りを生かして杉樽の生産が行われています。
釘などの金属製品を一切使用せずに作る杉樽を利用した酒作りは、手間がかかる上に出来上がるお酒の品質管理も難しいとされます。
そのため、現在では衛生面で管理のしやすいステンレス製の酒樽を使用している酒蔵が多くなりました。
それでも、一部の酒蔵では今もなお吉野杉で作られた杉樽を酒作りに利用しており、香りを楽しむことができます。
数回使用された杉樽は香りがお酒に移りにくくなることから、割り箸やマドラーといった製品に再利用され、環境面にも配慮されています。
まとめ
吉野杉は、DIYやリノベーションに最適な国産木材です。
きめ細かい木目と通直さ、そして加工のしやすさが魅力で、初心者にも扱いやすい材料です。
吉野杉は、奈良県地域材認証センターの認証を受けており品質も保証されています。
さらに、カビやウイルス、ダニを抑制する効果も実証され、健康的で安心な住まいづくりに貢献します。
吉野杉の活用は、DIYで家具や棚を作るだけにはとどまりません。
腐りにくい吉野百年黒杉を外壁や塀に利用したり、酒樽として香りを楽しんだりするなど、その用途は多岐に渡ります。
本記事が吉野杉を知るための参考になれば幸いです。
参考資料
奈良県地域材認証センター.「制度の概要」.http://www.nara-ninshozai.jp/(2024年12月10日取得)
奈良県.2017年7月7日.「奈良の木で健康になる」実証事業<改訂版>.https://www.pref.nara.jp/secure/181886/%E5%A5%88%E8%89%AF%E3%81%AE%E6%9C%A8%E3%81%A7%E5%81%A5%E5%BA%B7%E3%83%91%E3%83%B3%E3%83%95%EF%BC%88%E6%94%B9%E8%A8%82%E7%89%88%EF%BC%8920170629.pdf(2024年12月10日取得)
奈良県木材協同組合連合会.「奈良の木づかい」.https://naraken-mokuzai.jp/kizukai/kurosugi.(2024年12月10日取得)
全国木材協同組合連合会「外構部等の木質化対策支援事業」.https://www.kinohei.jp/.(2024年12月10日取得)
奈良県環境森林部県産材利用推進課.「奈良の木のこと」.https://naranoki.pref.nara.jp/magazine/enjoy/choryo/.(2024年12月10日取得)