ダウンロードした地理空間情報(シェイプファイルなど)をGISソフトに読み込む際、「実際と全く異なる地点に表示される」というトラブルが起ることがあります。
「土地利用の変化を追うためにデータを読み込んだら、家や道路が海の中に表示されていた・・・」
こんな事態に見舞われることが初心者だと珍しくありません。
こうしたトラブルの原因となるのがデータの座標系や測地系の違いです。
GISデータを利用する上で、必要不可欠となるこの2つの用語について、詳しく解説します。
目次
座標系とは
ArcGISやQGISなどのGISソフトでは、地球上にある建物や道路、森林などの特定の目標物の位置情報を表現する際に座標が用いられ、この組み合わせにより建物や農地の形状(ポリゴン)や道路や川の形状(ライン)などを表現しています。
座標系とは位置情報を座標で表現するための原点や座標の範囲などのルールのことを指します。
座標系(=ルール)に従うことで複数の地理空間データを組み合わせて比較分析などが行えるようになります。
地球上の座標の表現方法は多くありますが、GISで多く用いられるのは以下の2種類です。
- 地理座標系
- 投影座標系
こちらについて下記で解説するので、よく覚えておきましょう。
地理座標系
地理座標系は、緯度・経度を使って、球体である地球の各地域を表現する座標系です。
地球の重心を原点として、赤道の面と目標物の関係を角度で表したものが緯度で、原点と本初子午線、目標物の罫線の面の関係を角度で表したのが経度です。
緯度は赤道を0度として南北方向に90度までを、経度は本初子午線を基準にして東西方向に180度までをそれぞれ表現しています。
経度は各国の時差を表現する際にも使われ、東経15度ごとに1時間標準時より進み、西経15度ごとに1時間遅れます。
日本の場合は兵庫県明石市の東経135度線を基準としているため、東経0度線上にあるロンドンより9時間近く進んでいるというのは中学校で学んだという方は多いでしょう。
ただ地球の形は完全な球体ではなく楕円形であるため、その形状や重心の定義の方法は国によって異なります。
緯度・経度というよく使われるものであっても、地理空間分析をする上では表現形式を気にしなければならないという点には注意が必要です。
地理座標系は世界地図など広い範囲にわたる範囲を1つのデータとして包括できるという点に強みがあるものの、座標を平面状で表すと距離や面積、角度が正確でなくなるという問題があります。
投影座標系
3次元である地球を2次元の平面に投影して、東西をX座標、南北をY座標で表現する座標系です。
地球の投影方法や設定する原点の違いによってさまざまな形式が存在します。
座標は、原点からのX軸、Y軸方向への距離によって決まり、メートルなどの単位によって定められています。
投影座標系は、用いる投影方法において距離・面積・角度のいずれかを正確に表現できるという特徴がああるものの、全て正しいものにはできません。
そのため分析の目的に応じて正しい投影方法を見つける必要があります。
測地系とは
地図は球体である地球を二次元空間に表現した図ですが、先ほどもお伝えしたように実際の地球は全くの球体ではなく楕円型の形状をしています。
そんな楕円形の地球の正確な形状を知るための決まりごとのことを測地系といいます。
測地系は実際の地球の形に近い赤道の半径(長半径)と扁平率(楕円形の形が球体にくらべてどのくらいつぶれているかを表す値)を考慮した上で決めています。
その基準となる楕円形の形状の定義は、国や用途の違いによって様々です。
数万種類あるとも言われており、測地系は極めて多様性に富んだ概念といえるでしょう。
ただ、実際の分析ではいくつか代表的なものを数種類扱う場合が多いので、次に説明するものを覚えておくといいでしょう。
日本で多く用いられる座標の表現方法
座標系や測地系の違いにより、地理空間は同じ場所を表現しているものであっても多種多様なデータが存在します。
特に測地系の違いによる表現方法の違いは大きいです。
日本でも例外ではなく、大きく分けると他の国でも用いられる測地系と日本独特の座標系である日本測地系の2種類が存在します。
それぞれによる違いで同じ緯度・軽度の場所であっても全く異なる場所を指してしまうということがよく起こります。
それぞれに代表的なものが存在するので、以下にご紹介します。
世界各地で用いられる測地系
日本含め、世界各国でよく利用されている測地系は以下の3種類です。
いずれもGISソフトやウェブアプリケーションの開発で頻繁に見かけるものであるため、覚えておきましょう。
- WGS84系:米国で使用される測地系です。GPSでも利用されていることから数ある測地系の中でも非常に見かけやすいです。
- Webメルトカル座標系:Googleが開発した座標系で、同社のGoogleマップを含む多くのWebサービスで提供されています。地球を楕円形でなく球体と定義して投影をおこなっていることが特徴です。
- UTM座標系(ユニバーサル横メルカトル座標系):全世界を経度6度ごとのゾーンに分けて東回りに番号を付けて規格化したものです。国土地理院の地形図や地勢図はこの座標系を採用しています。
日本測地系
地図を作るために整備され続けた日本固有の測地系です。
これまでに幾度か改良されており、地図として見かけるのは以下の3種類です。
- 日本測地系:日本全体の地形図を作成するために整備された測地系で、明治時代から2002年3月までの長きにわたり利用されていました。準拠する楕円体としてはベッセル楕円形を用いています。
- 日本測地系2000(世界測地系):世界的に多くの国で使用されるGRS80を準拠楕円体としたことで、世界各国が作成する地図とのずれを修正した測地系です。2002年4月以降の地図で採用されています。
- 日本測地系2011:2011年の東日本大震災による地殻変動を考慮して構築された測地系です。2011年10月から各地図に採用されています。
日本測地系は、経済のグローバル化やインターネットの普及によりWebメルトカル座標系やUTM座標系が使用される機会が増えたため、使われる機会は徐々に減少しつつあります。
ただマップルやゼンリンなど日本企業が提供している企業の地図の中には、日本測地系が頻繁に用いられる地図も残っているため、地理空間分析においてはなおも外せない分析方法です。
GISソフトウェアにおける注意点
QGISやArcGISなどのGISソフト上で、測地系が異なる地図を重ね合わせると、同じ場所を表しているはずなのに地図ごとに表示される地点が大きく異なるということが起きます。
特に顕著なのが日本測地系と日本測地系2011(世界測地系)の違いです。
この2つの場合準拠する楕円形が異なる上、地形の歪みによる影響も相まって、場所によっては400~500m近く表されている場所が異なるということが生じてしまします。
同様に日本測地系が多く使われるゼンリンの住宅地図とWebメルカトル法に基づくGoogleマップでは、同じ建物でも位置が大きく異なるということが起こります。
数百メートルものズレが使われていては正確な分析は不可能と言っていいです。
測地系の場所を変換するWebツールはあるにはあるものの、扱いにくいものが多いためあまりお勧めできません。
使用する背景地図やオープンソースなど分析用にダウンロードした地図についてはどの測地系が使われているのか事前に確認するようにしましょう。
まとめ
GISで正確な分析を行うには、各地図の測地系を統一させることが重要です。
道路の真ん中に建物が表示される、建物が湖の中にあるなど不可思議な位置関係が表示されたら、使用している地図の測地系を疑い、正しいデータに差し替えるようにしましょう。
またGISに限らず地理データを受け取った場合は、ベースとなった地図がどの測地系かをよく把握しておくことをおすすめします。
特に日本測地系を用いた地図を使うことも多い不動産業界や運送業界の方がGISを利用する際には必須といっていい知識です。
代表的な座標系については分析を行う前に覚えておくようにしましょう。
なお、この記事を読むにあたっては座標参照系(CRS)についても併せて覚えると理解が深まるので、興味のある方は是非とも以下の記事もチェックしてみてください。
参考資料
ESRIジャパン株式会社「座標系|GIS基礎知識」https://www.esrij.com/gis-guide/coordinate-and-spatial/coordinate-system/(2024年2月24日取得)
ESRIジャパン株式会社「日本で使用される座標系|GIS基礎知識」https://www.esrij.com/gis-guide/coordinate-and-spatial/coordinate-system-japan/ (2024年2月24日取得)
中島円「その問題、デジタル地図が解決しますーはじめてのGIS」ベレ出版2021年出版、p40~43
株式会社マップル「Mapple API」https://asp.mapple.com/mappleapi/feature/(2024年2月24日取得)
株式会社ゼンリン「ゼンリンデータコム法人向けサービス よくあるご質問」https://www.zenrin-datacom.net/solution/faq (2024年2月24日取得)
Google for Developers「地図とタイル座標」https://developers.google.com/maps/documentation/javascript/coordinates?hl=ja(2024年3月21日取得)