ミーンミンミンミンミン・・・
夏と言えばセミの鳴き声、セミと言えばミンミンゼミをイメージする人も多いはず。
私もその一人なのですが、ふと「最近ミンミンゼミの鳴き声を聞かないな」と気づきました。
筆者は関東出身で、10年ほど前から関西に住んでいます。
「関西・西日本にミンミンゼミって少ないのかな?」と疑問に思いました。
この疑問を解消するため、セミについて調べていくと興味深い事実にたどり着きました。
日本に生息するセミ
日本には約30種類のセミが生息しています。
中でもアブラゼミ、クマゼミ、ヒグラシ、ニイニイゼミ、ツクツクボウシ、ミンミンゼミはよく見られます。
日本の中でも、環境によってよく見られるセミは異なり、都市性のセミと森林性のセミがいます。
クマゼミやアブラゼミは都市にも多く生息する「都市性」のセミです。
ヒグラシやミンミンゼミ、エゾハルゼミなどは都市部ではあまり見かけない「森林性」のセミと言えます。
実際に関西にミンミンゼミはいないのか
結論から言うと、関西にもミンミンゼミは生息しています。
セミの地域性について調べた資料に、1995年に環境庁(現:環境省)が「緑の国勢調査」として調査した結果があります。
古い資料ですが、3万6千人もの協力者のいる大々的な調査であり、現在でも参考にすることができます。
この資料によると、大阪・兵庫・京都などの関西地方、中国・四国、九州地方でもミンミンゼミの抜け殻が確認されています。
ただし、関東と比べるとその割合はとても少なく、以下の図の分布となります。
より直近の調査では、大阪でセミの多様性について研究した論文が2015年に刊行されています。
この調査によると、都市部の公園で観測されるセミは、クマゼミとアブラゼミがほとんどの割合を占めています。
森林ではヒグラシやニイニイゼミが多くの割合を占めるものの、一部ミンミンゼミも確認されています。
※ただし、森林でも標高の低い場所での調査ではミンミンゼミは観測されませんでした。
(参照:Minoru Moriyama & Hideharu Numata.「Urban soil compaction reduces cicada diversity」)
一方関東では、都市部でもミンミンゼミが生息しています。
前述した1995年の環境庁の調査でも示されていますし、筆者が今年関東に帰省した際は都市部でもミンミンゼミの鳴き声はよく聞こえていました。
なぜ関西に少ないのか:クマゼミとの関係
関西にもミンミンゼミは生息しているものの、関東と比べると希少であることが分かりました。
特に、「関東では都市部にもミンミンゼミがいるけれど、関西では都市部にミンミンゼミがいない」という特長が浮き出てきました。
なぜ関西の都市部ミンミンゼミは少ないのでしょうか。
関西の都市部に多く生息しているのはクマゼミです。
特に大阪ではクマゼミが多く、1980年代ごろからクマゼミの増加が顕著になったようです。
「クマゼミから温暖化を考える」という本から、以下の2つのことが分かりました。
- 都市化・温暖化にともない乾燥して土が硬くなったことが、硬い土でも潜ることのできるクマゼミの増加につながった
- 温暖化によってクマゼミの孵化の時期が早まり、幼虫が生存しやすい梅雨の時期と重なるようになった
そして、クマゼミが増える半面、ミンミンゼミやアブラゼミなどのセミが減少したという可能性が考えられます。
1980年以前に関西の都市部にミンミンゼミがいたかどうかは断定できる情報はありませんが、1つの可能性としては考えられそうです。
関東でもミンミンゼミが減少する可能性
1995年の時点での環境庁(現:環境省)の調査では、東京や千葉あたりがクマゼミ生息の北限でした。
しかし現在では埼玉県や茨城県でもクマゼミが確認されており、クマゼミの分布は次第に北上しています。
関西地方でミンミンゼミの代わりにクマゼミが増えた(仮説)ように、関東でもいつかクマゼミが台頭しミンミンゼミが減少するかもしれません。
まとめ
ふと疑問に思ったことからセミについて調べると、地球温暖化の問題まで考えさせる奥深い結果になりました。
お盆に関東に帰省した際、窓の外から聞こえてくるのはやはりミンミンゼミの鳴き声。
今までうるさいとしか思ってなかった鳴き声に、少ししんみりとした筆者でした。
参考資料
環境省生物多様性センター.「第5回緑の国勢調査」.1995年.https://www.biodic.go.jp/reports/5-2/n000.html(2024年8月20日取得)
沼田英治.「クマゼミから温暖化を考える」.株式会社岩波書店,2016.p135-137,158-160
Minoru Moriyama & Hideharu Numata.「Urban soil compaction reduces cicada diversity」.Zoological Letters,(2015) 1:19