林業は農業などと同様に、気候による影響を受ける業種です。
とくに、雪国においては雪を使った作業が行われていて、独自の林業を築いています。
しかし、実際に雪国で林業をしていない人にとっては実態がわかりにくいものです。
「雪が積もったらどんな林業をするんだろう」
「雪が積もって良いことがあるのかな」
「そういえば雪起こしって聞いたことがあるけどどんな作業?」など、様々な疑問もあることでしょう。
そこで本記事では、雪国の林業の特徴や雪起こし作業の内容を解説します。
雪が積もったときの注意点も紹介するので、他の地域の林業を知る参考にしてみてください。
目次
雪国の林業・4つの特徴
雪国の林業における代表的な4つの特徴は以下のとおりです。
- 根曲がりが発生する
- 雪を土の代わりとして使える
- 林地を荒らさず作業できる
- 造材した丸太に土が付かなくなる
どれも雪が積もらない地域では考えにくい特徴です。それぞれ1つずつ見ていきましょう。
「根曲がり」が発生する
木の根元の部分が肥大したまま育つことを「根曲がり」といいます。
雪に耐えるために根元部分が強く大きくなり、曲がったまま成長するのが特徴です。
収量が期待できる一番太い部分がチップ材の扱いとなるため、収益性は低下してしまいます。
しかし、根曲がりした材にも使い道があり、その用途は建築用材である腰板です。
伐採した材のうち、地際から1mほどまでの部分である伐根は、100年を超す高樹齢であれば市場では高額で取引されています。
ボリュームもなかなかのものであるため、雪国の林業ではうまく活用して収益につなげています。
雪を土の代わりとして使える
雪は成型もしやすく踏み固めると頑丈になるため、土の代わりとしても使えます。代表的な使用例が、雪で作業道を作ることです。
平坦な場所なら1mほどの積雪で作業道を作設でき、2mを超える積雪があれば大体どんな場所でも作業道を作れます。
一般的な作業道は、基本的には土を削って作ることになるため、山に沿った線形になる場合が多いものです。
雪国の山であれば雪はどこにでもあるため、作業道を自在に作って効率の良い作業ができます。
林地を荒らさず作業できる
雪が積もった後に山林に入ると、雪の上で作業することになります。
山を削らずに作業ができるため、林内を荒らすことがありません。
重機のわだちがない山林は美しいものです。
森林所有者が仕事を依頼するときに冬場の作業を好むのは、このような理由があるからといえるでしょう。
造材した丸太に土が付かなくなる
雪上での作業は土が露出することがないため、造材した丸太がきれいな仕上がりになります。
林業では土をあらわにした作業道の上での作業が多く、丸太に泥が付着するのは日常的に起こりうることです。
しかし、泥が付いたままの丸太は、製材工場ののこぎりを傷める原因につながります。
雪国において冬場に生産された丸太は、製材工場から喜ばれています。
雪国の林業ならではの作業「雪おこし」とは
雪起こしとは、積雪によって倒れた幼い針葉樹の苗木を、人の手で起こす作業をいいます。
木は自然に起き上がろうとしますが、立ち上がりを助けると曲がったまま成長することを防げます。
起こした苗木は再び傾かないよう、苗木近くの柴に麻ひもなどで固定されます。
その後一定期間固定され、手で麻ひもを解くか、下刈り時に麻ひもごと刈り取られて独り立ちします。
積雪がない地域では全く必要のない作業であり、雪国の林業ならではの作業です。
雪起こしに対する補助金も用意されていて、雪国の保育作業としては一般的な作業といえます。
雪が積もったときの4つの注意点
雪が積もったときの注意点には、以下の4つが挙げられます。
- 重機や道具が滑る
- クローラーが凍結する
- 泥水が発生しやすい
- 沢に落ちる可能性がある
もともと危険な業種とされる林業ですが、雪が積もることでさらに危険度が増します。
それぞれについて詳しく紹介します。
重機や道具が滑る
雪は土よりも滑りやすいため、重機の運転には注意が必要です。
重機は一度滑り出したら、平たんな所に着くかぶつかるまで簡単には止まれません。
そのため、作業道の傾斜は夏場よりもゆるく作り、重機が滑るのを防止する必要があります。
雪上での滑り出し対策としてクローラー部分にピンやチェーンを装着しますが、それでも油断はできません。
くわえて、手に持つチェーンソーやナタなどの手工具も滑りやすくなります。
夏時期よりも慎重な作業が求められるのが、積雪時の林業です。
クローラーが凍結する
重機の走行装置、つまり足の部分をクローラーと呼びます。
雪の降り始めのときに木材を運搬すると、クローラーが動かなくなることがあります。
その原因は、クローラー部分に付着した泥と雪の混合物が一緒に冷え固まってしまうからです。
解凍するには工夫が必要で、少しずつスコップなどで取り除いたり、ガスバーナーなどで温めて取り除いたりする方法が考えられます。
終業時にクローラーに付いた泥を掃除していれば回避できる現象のため、日頃の機械の手入れが大切です。
泥水が発生しやすい
雪が降り積もったあとに入る山林はきれいな作業が期待できます。
しかし、秋口からずっと山にいて雪が降り始めた場合、作業道の土と雪が混じって泥になってしまいます。
新たに降ってきた雪は泥水に溶けて消えてしまうため、一度泥水と化してしまうと、なかなか雪の上での作業はできません。
正月の休みを利用していったん雪が降り積もるのを待つのも、雪国の林業業界ではよく見受けられます。
沢に落ちる可能性がある
林内に降り積もった雪は、沢を隠してしまいます。
雪の下の空洞に気づかないと、踏み込んだときに雪が崩れ沢目に転落する危険性があります。
そのため、人も重機も沢目付近を通行するときには、十分に注意が必要です。
沢目への落下は、雪が地面の方から消える春先に起こりやすい現象です。
沢目付近で作業するときには、何か目印になるものをつけて対策しましょう。
まとめ
雪国での林業は、作業がはかどるように雪を上手に利用しています。
土の代わりに雪で作業道を作ったり、雪上で作業し丸太への泥の付着を防いだりといった具合に、その使い道は様々です。
しかし、積雪による注意点もあり、メリットばかりではありません。
とくに、雪に押しつぶされて幼木が曲がって育つ「根曲がり」には対策が必要で、そのために「雪起こし」と呼ばれる作業が存在します。
もし、雪国の林業に興味を持たれた方は、積雪の多い2月頃の現場見学をおススメします。
雪を利用した林業をしっかり感じ取れることでしょう。
この記事が雪国の林業を知る機会になれば幸いです。