「GPSには相対性理論が使われている」という事を聞いたことがあるでしょうか。
なぜGPSに相対性理論が使われているのでしょう。
この記事では、相対性理論がどのようにGPSに使われているのかを順を追って丁寧に解説します。
GPSのしくみ
まず、GPSについて簡単に解説します。
GPSとはGlobal Positioning System(全地球測位システム)の略で、人工衛星を利用して現在位置を計測するためのシステム「GNSS」の1つです。
※GPSはあくまでGNSSの1つの種類でアメリカが運用するものですが、この記事ではGNSSのこともGPSと呼ぶことにします。
スマホの位置情報を例にして、GPS衛星を使って位置情報を割り出す方法を考えてみましょう。
位置情報(x,y,z)座標を特定するには、「3機のGPS衛星の座標」と、「それぞれの衛星とスマホの距離の情報が必要です。
高校で習う「3次元の2点間の距離の公式」を応用することで現在地の座標(x,y,z)を求めることができます。
求める位置情報(スマホの座標)を(x,y,z)、GPS衛星Aの座標を(ax,ay,az)とすると、以下の式が成立します。
$$ 距離A=\sqrt{(x-ax)^{2}+(y-ay)^{2}+(z-az)^{2}} $$
さらに、GPS衛星Bの座標を(bx,by,bz)、GPS衛星Cの座標を(cx,cy,cz)とすると以下の式も成り立ちます。
$$ 距離B=\sqrt{(x-bx)^{2}+(y-by)^{2}+(z-bz)^{2}} $$
$$ 距離C=\sqrt{(x-cx)^{2}+(y-cy)^{2}+(z-cz)^{2}} $$
求めたいのは(x,y,z)の座標です。
各GPS衛星の座標(ax,ay,az)、(bx,by,bz)、(cx,cy,cz)は既に分かっています。
さらに、スマホとGPS衛星の距離(距離A、距離B、距離C)は以下の計算によって求めることができます。
- スマホとGPS衛星の距離=光の速さ×(GPS衛星が信号を発生した時刻-スマホが信号を受信した時刻)
「距離=速さ×時間」という単純な計算式です。
3つの未知数(x,y,z)に対して3つの式があるので、これを計算することにより(x,y,z)の値を求めることができます。
実際には時間を補正するためにもう1機のGPS衛星を利用し、4機のGPS衛星より位置情報を求めます。
ここで紹介したのは「単独測位」という測定方法ですが、他にも様々な測位があります。さらに、実際にスマホの位置情報を求めるには、GPSだけでなくWi-Fiや基地局も利用しています。詳しくは以下の記事で解説しています。
GNSS測位について
位置情報データについて
ここで覚えておいて欲しいのが、位置情報を求めるのにGPS衛星が信号を発生した時刻の情報が必要だということです。
特殊相対性理論:高速で動くと時間が遅れる
さて、GPSの大まかなしくみをご理解いただけたところで相対性理論の話に移ります。
相対性理論には「特殊相対性理論」と「一般相対性理論」があり、まずは「特殊相対性理論」から説明します。
特殊相対性理論は簡単に言うと「時間と空間は、長くなったり短くなったりする」という考えです。
高速で動くものは時間が遅れ、空間が短くなるのです。
この理論は、光の速度は誰から見ても同じという「光速度不変の原理」から導かれます。
光の速度は止まった状態から見ても動いた状態から見ても変わらないということは実験でも明らかになっています。止まっている物体と高速で動く物体から同時に光を観測したとき、「速度=距離÷時間」を成立させるためには進んだ距離と時間を変化させてつじつまを合わせる必要があります。これが特殊相対性理論の「時間と空間は相対的なもの」という考えです。
詳しい説明については専門サイトや専門書にあるので知りたい方は当たってみてください。
GPSの補正と関係するのが、「高速で動くと時間が遅れる」という部分です。
GPS衛星は時速約14000kmで進んでおり、そのためGPS衛星に搭載された時計は地上の時計と比べて1日で120マイクロ秒ほど遅れることになります。
では、GPS衛星の時計を‐120マイクロ秒で計算して補正すればよいのかと言うとそう単純な話ではありません。
なぜなら一般相対性理論が絡んでくるからです。
一般相対性理論:重力が強いと時間が遅れる
一般相対性理論は簡単に言うと「重力は時間と空間のゆがみであり、質量が大きいほどゆがみが大きくなる」という理論です。
こちらも「光速度不変の原理」より導き出された理論です。
一般相対性理論によると、宇宙空間において天体の周囲で時空がゆがむことになります。
時間と空間は一体であるので、天体に近いほど時間の流れは遅くなります。
つまり、地上から離れているGPS衛星は地上と比べると時間の流れは速いのです。
GPS衛星は高度約2万キロメートルの空間を飛んでおり、GPS衛星の時計は地上の時計と比べて1日で150マイクロ秒ほど早く進むことになります。
地上から離れるほど重力の影響が弱くなり時間の進みが速くなるという理論は、高い建築物においても当てはまります。2020年、東京大学らの研究チームは東京スカイツリーの地上階と展望台に高精度の時計を設置し、一般相対性理論の検証に成功しました。東京スカイツリーの展望台では地上よりわずかに時間の進みが速いのです。(出典:18桁精度の可搬型光格子時計の開発に世界で初めて成功~東京スカイツリーで一般相対性理論を検証~)
相対性理論によるGPSの補正
GPS衛星は「速く進むことで時間の進みが遅くなり、重力が小さいために時間の進みが速くなる」という2つの影響を受けていることがわかりました。
具体的には以下の通りです。
- 特殊相対性理論の影響で、GPS衛星に搭載された時計は地上の時計と比べて1日で120マイクロ秒ほど遅れる
- 一般相対性理論の影響で、GPS衛星の時計は地上の時計と比べて1日で150マイクロ秒ほど早く進む
これらのことより、GPS衛星に搭載された時計は地上の時計と比べて1日で30マイクロ秒ほど進むことになります。
この時計のずれは、位置情報にすると約10kmもの誤差になります。
GPSでは、誤差が生じないようにあらかじめ補正をかけて調整しています。
まとめ
GPSと相対性理論の関係について、わかったことをまとめます。
- GPSで位置情報を求めるにはGPS衛星が発信する時刻の情報が必要
- GPS衛星は速く進むことで地上に比べ時間の進みが遅くなるという特殊相対性理論の効果を受けている
- GPS衛星は重力の影響が小さいことで地上に比べ時間の進みが速くなるという一般相対性理論の効果を受けている
- 結果的にGPS衛星に搭載された時計は地上の時計と比べて1日で30マイクロ秒ほど進み、距離にすると約10kmの誤差になる
- GPSでは誤差が生じないようにあらかじめ補正をかけて調整している
GPSにも相対性理論が役立っていると思うと、より相対性理論のことが身近に感じられますね。
参考資料
国土交通省国土地理院.「GNSS測位とは」https://www.gsi.go.jp/denshi/denshi_aboutGNSS.html (2024年10月8日閲覧)
佐藤勝彦監修.「ニュートン式超図解 最強に面白い!! 相対性理論」.株式会社ニュートンプレス,2020.p54-59,92-95,116
東京大学 大学院工学系研究科・工学部.「18桁精度の可搬型光格子時計の開発に世界で初めて成功
~東京スカイツリーで一般相対性理論を検証~」.2020年4月7日.https://fs.hubspotusercontent00.net/hubfs/20511701/pressrelease/2020/setnws_202004071401382830455235_287172.pdf (2024年10月8日閲覧)