2024年2月27日、環境省にて令和5年度後期「自然共生サイト」認定結果が公表され、新たに63サイトが追加になりました。
「自然共生サイト」とはどんなものなのでしょうか?
この記事では、自然共生サイトの概要、また認定されるメリットや認定されているエリアの特徴について解説します。
目次
自然共生サイトとは?
環境省のページでは以下のように説明しています。
「自然共生サイト」とは、「民間の取組等によって生物多様性の保全が図られている区域」を国が認定する区域のことです。
出典:環境省ホームページ
認定区域は、保護地域との重複を除き、「OECM」として国際データベースに登録されます。
民間と生物多様性が重要なポイントになります。
自然共生サイトが発足した背景には、2021年のG7サミットにて約束された30by30という目標があります。
30by30とは、2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として効果的に保全しようとする目標です。
国立公園などの保護地区に加え、保護地区以外の生物多様性に貢献するエリア(OECM)を認定し、合計で30%以上にするという考えです。
OECMとは
Other Effective area-based Conservation Measuresの頭文字をとった言葉で、「保護地域以外の地理的に確定された地域で、付随する生態系の機能とサービス、適切な場合、文化的・精神的・社会経済的・その他地域関連の価値とともに、生物多様性の域内保全にとって肯定的な長期の成果を継続する方法で統治・管理されているもの」と定義されています。
簡単に言うと、「保護地区のようにガチガチに守られたエリアではなく人間の営みがありつつも、長期的に生物多様性を守るためにプラスになるように管理されたエリア」といったところです。
2021年の時点で日本で保全対象となっている区域は陸は20.5%、海は13.3%と目標の30%からかけ離れている状態です。
さらに、日本では国立公園といった保護地域内にも民間等の取組によって生物多様性の保全が図られている区域があります。
民間等の取り組みを柔軟に認定するため、里地里山や企業林、社寺林などのように地域、企業、団体によって生物多様性の保全が図られている土地をOECMに認定する「自然共生サイト」の取り組みが2023年度から始まりました。
自然共生サイトのうち、保護地域との重複を除いた区域がOECMとして登録されます、
自然共生サイト認定エリアの特徴
自然共生サイトの対象となるのは、以下の特徴を持っているエリアです。
- 生物多様性の価値を有する
- 事業者、民間団体・個人、地方公共団体による様々な取組によって、生物多様性の保全が図られている
具体的に言うと、現在認定されている自然共生サイトは以下のようなエリアです。
- 社有林
- 工場などに付随した緑地スペース
- 教育機関(大学の敷地・演習林、幼稚園、保育園)
- 植物園・研究機関
- 水田
全体的に見たところ、土地の特徴としては森林がや緑地が多いです。
2023年に認定された184か所の自然共生サイトのうち、サイト名に「森」または「林」が入るものが89個あり、全体の約半分の割合です。
そのほかビオトープや湿原、水田、池も認定されています。
「阪南セブンの海の森」や「吉崎海岸自然共生サイト」など海域・沿岸域でも認定されているものはありますが、森林や緑地と比べると少ないです。
申請者(管理者)は企業が多く、自治体や大学、NPO法人なども多数あります。
一部には有志団体や、自宅庭が認定されている個人の申請者の方もいます。
出典:環境省ホームページ
認定されるメリット
社有林や教育機関など幅広いエリアで認定されている自然共生サイト。
認定されるとどのようなメリットがあるのでしょうか。
PR・ブランド力向上
現時点での主なメリットは、サイトの価値、企業/地域/組織のPRになるというものです。
社有林や緑地などを管理しているという事実自体が価値のある行為ですが、「自然共生サイト」として認定を受けることで、第三者から見てもサステナブルな取り組みをしているということがより分かりやすくなります。
その結果、ステークホルダーへのアピールやESG投資、ESG融資を受けやすくなるというメリットがあります。
また、地域住民にサイトの価値を知ってもらうことで利用者が増えたり、地域貢献することで従業員・メンバーのモチベーションが上がるというメリットもあります。
支援を受けられる可能性がある
2024年3月現在は試行段階ではありますが、自然共生サイトの所有・管理者と支援者をマッチングする「支援証明書制度」が計画されています。
自然共生サイトの所有・管理者は寄付などの支援を受けられ、支援者には支援証明書が発行される仕組みです。
環境省は2025年度(令和7年度)に本格的な運用を目指し、現在試行・検討を進めています。
同じく環境価値を取引する制度に、J-クレジット制度があります。
J-クレジット制度がCO2等の温室効果ガスの削減・吸収を対象としているのに対し、支援証明制度は自然共生サイトに係る取組の支援に対して認証されます。
また、J-クレジットではクレジットの購入という金銭的な取引に限られますが、支援証明制度では寄付や投資だけでなく技術支援などの行為も認定の対象になることが計画されています。
J-クレジット制度について、詳しくは以下の記事をご覧ください。
認定基準
自然共生サイトの認定基準や申請方法について、令和5年度後期申請の資料をもとに説明します。
自然共生サイトの認定には、4つの基準が設けられています。
- 境界・名称に関する基準
- ガバナンスに関する基準
- 生物多様性の価値に関する基準
- 活動による保全効果に関する基準
1.2.に関しては土地の面積が分かる、きちんとした責任者がいるなどの基準のため、特に問題なくクリアできるでしょう。
GISデータ(Shapeファイル、KMLファイルなど)や誓約書の提出が必要です。
3.は「生物多様性の価値」という自然共生サイトの主軸に関わる基準であり、具体的に1から9までの価値が定められています。
価値基準に応じて、植生図や動植物種に関する資料などが必要です。
4.は活動計画・モニタリング計画をがわかる資料を提出します。
詳細は自然共生サイト認定基準をご確認ください。
人工林でも申請できる?
人工林でも自然共生サイトに申請することは可能です。
9つある生物多様性の価値に関する基準のうち、価値(3)「里地里山といった二次的な自然環境に特徴的な生態系が存する場」においては、二次林や人工林も該当します。
例えば、2023年前期に認定されたサイトNo.23「つなぐ森」(野村不動産ホールディングス株式会社)は、主にスギ・ヒノキの人工林で構成されている森林です。
エリアの一部に天然のモミ・ツガ林が存在し多様な動植物が確認されていたり、針広混交複層林化の計画が立てられているというポイントがあります。
人工林であっても、豊かな生物多様性を証明できれば認定されるという事です。
認定されるメリットもあるので、森林を所有している方はぜひ申請を考えてみてください。
2024年度(令和6年度)の申請も受け付け予定で、詳細が決まり次第サイトに掲載されるとの事です。
https://policies.env.go.jp/nature/biodiversity/30by30alliance/kyousei/
まとめ
自然共生サイトは、民間の力で生物多様性の保全に貢献できる制度です。
支援証明制度が運用されればますます認定されるエリアが増えるでしょう。
木材生産を主目的とした人工林がメインのエリアでも認定される場合がありますので、森林を所有している方・企業はぜひ申請を検討してみてください。
参考資料
環境省.「自然共生サイト」.https://policies.env.go.jp/nature/biodiversity/30by30alliance/kyousei/(2024.3.15取得)
環境省.「資料1 OECMの設定・管理に関するこれまでの成果について」.https://www.env.go.jp/content/000147427.pdf(2024.3.15取得)
環境省.「自然共生サイト認定基準」.https://policies.env.go.jp/nature/biodiversity/30by30alliance/documents/30by30site-Identification-Scondcriteria.pdf(2024.3.15取得)
CLASS EARTH.「30by30目標に向けて。OECMと自然共生サイトの違いとは」.https://class-earth.com/journal/30_by_30/(2024.3.15取得)