林業の再造林において、今まで設定されていた植栽本数よりも少ない苗木を植えるのが「低密度植栽」です。
聞いたことはあるものの「実際どのくらいの本数を植えるのか」「メリット・デメリットを知りたいな」などの思いのある方もいるのではないでしょうか。
そこで本記事では、低密度植栽の概要やメリット・デメリットを紹介します。
目次
低密度植栽とは
低密度植栽とは、以前は1ha当たり3,000本程植えられていた苗木を、「1,000〜1,500本」程度にして植栽することをいいます。
基本的にはスギやヒノキなどの針葉樹に当てはまる植栽方法です。
低密度植栽の検証が進められてきた背景には、再造林の際の低コスト化があります。
現行の1ha当たり3,000本を植える方法の場合、植栽には相応のコストがかかってしまうため、皆伐時に得た収益では再造林が見込めないという事情がありました。
そのために考えられた1つの策が、低密度植栽です。
林野庁では5カ年にわたり「低密度植栽技術の導入に向けた調査委託事業」を行い、実証試験を重ねてきました。
知見がたまった今では、「スギ・ヒノキ・カラマツにおける低密度植栽のための技術指針」が取りまとめられているほどです。
林野庁の「スギ・ヒノキ・カラマツにおける低密度植栽のための技術指針」によると、スギ・ヒノキ・カラマツのどの樹種をとっても直径は大きくなる傾向にあり、樹高はそれほど変化しない傾向にあるとされています。
参照:林野庁「スギ・ヒノキ・カラマツにおける低密度植栽のための技術指針」
低密度植栽のメリット
これまでに行われてきた林野庁の実証実験によると、低密度植栽を行った場合のメリットは以下の2つとされています。
- 植栽コストを削減できる
- 下刈りのコストを下げる可能性がある
いずれもコストの削減が期待できます。それぞれについて見ていきましょう。
植栽コストを削減できる
林野庁の「低密度植栽で 低コストで効率的な再造林を目指す!」によると、低密度植栽を行った場合の植栽のコストは、一般的な3,000本植えと比べて43%へと下げられたとの報告があります。
出典:林野庁「低密度植栽で 低コストで効率的な再造林を目指す!」
2,500本や1,600本で植えた場合でもコストの削減が報告されており、今後ますます普及していくものと考えられます。
ただし、どの程度まで植栽本数を減らすことが可能であるかは、樹種によって異なります。
樹種ごとの最低でも保つべき植栽密度を以下の表に示します。
樹種 | 植栽密度の目安(1ha当たり) |
---|---|
スギ | 1,000〜1,500本以上 |
ヒノキ | 1,500本以上 |
カラマツ | 1,000本以上 |
低密度植栽を行う際は、樹種に適した本数があることを覚えておきましょう。
下刈りのコストを下げる可能性がある
低密度植栽で植えられた箇所の下刈りは、コストを下げられる可能性があります。
基本的に植えられた苗木は、下刈りの際には避けるべき障害物です。
低密度植栽では植栽本数が抑えられているため障害物が少なくなり、下刈りがはかどるとされています。
ただし、雑草の生育力が強い箇所だとますます雑草が生い茂り、下刈りコストの増大も考えられます。
そのため、比較的雑草の勢いの少ない場所に適した植栽方法といえるのが低密度植栽です。
低密度植栽は従来の植栽間隔と異なるため、誤伐(下刈りの際に間違って苗木を刈ってしまうこと)が心配されます。
そのため、下刈りの作業者への注意喚起や苗木へのマーキングなどをして、誤伐から苗木を守る必要があります。
低密度植栽のデメリット
低密度植栽は従来の植栽方法よりもコストを抑えられる反面、以下のデメリットがあります。
- 年輪幅の大きい木が育ちやすい
- 自然災害などで本数が減ると林にならない可能性がある
実際に導入を検討する前に、デメリットを確認していきましょう。
年輪幅の大きい木が育ちやすい
低密度植栽ののちに成長した樹木では、年輪幅の整った無節材(木の節がない良質な材)の収穫は見込めないデメリットがあります。
年輪幅が大きくなりやすい理由は、低密度に植栽された樹木は植栽間隔が広がるため、成長を阻害されずに早く育つからです。
そのため、長期の生育を計画し、最終的には販売単価の良い木材の生産を見込むのには適した植栽方法ではありません。
成長初期の年輪幅の肥大が予想されるため、集成材や合板といった加工用木材として出荷するものとして考える必要があります。
質よりも量を重視しても問題ない場合に取り入れる作業方法といえるでしょう。
自然災害などで本数が減ると林にならない可能性がある
低密度植栽は植栽本数を抑えた植栽方法のため、以下にあげるような理由で植えられた本数が少なくなると、林にならない可能性があります。
- 下刈り時の誤伐
- 自然災害
下刈り時の誤伐については、苗木へのマーキングや坪刈り(植栽木の周りだけを刈ること)をすることで、ある程度対策を打てるでしょう。
自然災害はいつどこで何が起こるかを予測しにくいものです。
そのため、効果的な対策は打ちにくい面はありますが、立地条件や年間を通した気象条件などを考りょして植栽箇所を選ぶ必要があります。
もし、自然災害に対する備えをするのであれば、森林保険を検討するという手もあります。
以下は森林保険の対象となる災害の一覧です。
出典:林野庁「森林保険制度の概要」
森林保険についてさらに詳しく知りたい方は、国立研究開発法人森林研究・整備機構森林保険センターの「森林保険とは」をご参照ください。
まとめ
低密度植栽は、植栽コストの減少を期待されている植栽方法です。
植栽木の成長にも特別影響が少ないとされ、下刈りのコスト削減の可能性もあります。
将来生産される木材が、集成材や合板といった加工用木材になる可能性を許容できるのであれば、十分に取り組む価値のある作業です。
参考資料
林野庁.スギ・ヒノキ・カラマツにおける低密度植栽のための技術指針.2020.3.https://www.rinya.maff.go.jp/j/seibi/sinrin_seibi/attach/pdf/R01mitudo-15.pdf(2024年4月18日取得)
林野庁.低密度植栽で 低コストで効率的な再造林を目指す!Q1.どのくらいの植栽密度にすればいいの?.2020.3.https://www.rinya.maff.go.jp/j/kanbatu/houkokusho/attach/pdf/syokusai-8.pdf(2024年4月18日取得)