カメムシが大量発生しているのはなぜ?カメムシと森林の関係に迫る | 森林テック
コラム

カメムシが大量発生しているのはなぜ?カメムシと森林の関係に迫る

2023年に大きな問題になったカメムシの大量発生。

今年2024年も、5月末時点で30都府県に「果樹カメムシ類の注意報」が発令されています。

カメムシはモモやリンゴなどの果樹に被害をもたらすほか、家の中にも侵入し悪臭を放ちます。

なぜ近年カメムシが大量発生しているのでしょうか。

そこには「日本の森林や林業の問題」が深く関わっていることがわかりました。

カメムシの大量発生と森林の関係について、科学的な視点で詳しく解説していきます。

カメムシの発生状況

2024年のカメムシの発生状況を調べたところ、既に多くの発生が報告されています。

栃木県によると、「調査地6地点のうち4地点で平年比約11~71倍の誘殺数」が確認されています。

また、兵庫県ではトラップを用いた果樹カメムシ類の捕獲数が例年より極めて多くなっているとの報告があります。

出典:兵庫県病害虫防御所ホームページ「令和6年度病害虫発生予察防除情報第3号(果樹カメムシ類の発生状況と防除対策)」

カメムシの発生には隔年性があり、2024年は発生が多い年に該当します。

2023年も多くのカメムシが発生していましたが、それ以上に多く発生するのは恐ろしいですね。

それではなぜカメムシが大量発生しているのでしょうか。

カメムシが大量発生する理由

カメムシが大量発生している理由について、主に以下の説が唱えられています。

  • 地球温暖化により越冬できるカメムシの個体が増えたから
  • カメムシのエサとなるスギやヒノキの実が増えているから

それぞれについて説明するため、まずはカメムシの生態について簡単にみていきましょう。

カメムシは初夏~夏に孵化した後、スギやヒノキの実、果樹などを吸汁して(食べて)成長します。

その後、山の中で越冬する個体もありますが、一部の個体は山から人里へ飛翔し建物に侵入します。

成虫の姿で越冬するカメムシは冬の間はおとなしく過ごしますが、哺乳類の冬眠と違い眠っているわけではありません。

冬の間もカメムシの姿を見かけるのはそのためです。

春になると越冬を終えて山にもどり、繁殖期を迎えます。

繁殖の後、秋が来るまでには1年強ほどの生涯を終えます。

越冬できずに死亡する個体もありますが、温暖化により越冬できる個体が増えた、というのが近年カメムシが大量発生している根拠の1つです。

そして春~夏、カメムシが山にいる時期に主にエサとしているスギやヒノキの実が増えているからカメムシも増えている、というのが2つ目めの根拠です。

この根拠は研究で裏付けされています。

静岡県農林技術研究所森林・林業研究センターが1987年から2006年にかけて行った研究によると以下のことが明らかになっています。(出典:静岡県ホームページ

  • チャバネアオカメムシが大発生するのはヒノキ球果(実)が豊作の年に限られる。
  • ただし、数年以内に大発生があった場合はヒノキ球果が豊作でも大発生しない(天敵が多いため)。
  • ツヤアオカメムシ、クサギカメムシにおいても同様の発生パターンである。

このことからヒノキの実が豊作で、かつ近年にカメムシの大発生がない場合はカメムシの大発生を起こると予測できます。

出典:静岡県農林技術研究所森林・林業研究センター「害虫カメムシの大発生を予測~スギ・ヒノキ種子や果樹の害虫カメムシ類の発生量とヒノキ球果結実量の関係~」

また森下正彦らの研究によると、スギ花粉飛散数とチャバネアオカメムシ・ツヤアオカメムシの発生量には相関があることが明らかになっています。

スギ・ヒノキの実の状態とカメムシの大量発生は明確な関係があったのですね。

スギやヒノキの実が増えている理由

近年花粉症患者が増加していることから、スギやヒノキの花粉の飛散量が多くなっているという印象は多くの方が持っているでしょう。

花粉の元になるスギ・ヒノキが多く植えられている理由は、簡単に言うと「戦中・戦後の物資不足を補うためにスギ・ヒノキが多く植えられ、林業の採算性や人手不足などの問題により適切に伐採されていない状態が続いているため」です。

詳しくは以下の記事で説明しています。

成長したスギ・ヒノキの個体数が多いと当然実の数も多くなります。

森林整備を適正に進めることが花粉対策になり、そしてカメムシの大量発生対策につながります。

国は適正な森林整備のために、「森林環境税」の制度をはじめ様々な取り組みを行っていますが、成果が出るまでは長期的な視点で見る必要があります。

カメムシの対策方法

カメムシが大量発生する理由を見てきましたが、実際にカメムシを家の中に入れないようにするにはどうしたらよいでしょうか。

カメムシの予防

初夏の繁殖期には、スギ・ヒノキ、果樹、トマト・ピーマンなどのカメムシが好む植物に卵を植え付けられる可能性があります。

防虫ネットで対策したり、スギ・ヒノキなど人間が食さないものは忌避剤やハッカ油を散布するのもおススメです。

また、カメムシは夜間に明かりに集まる習性があります。

夜間のうちに窓の明かりに集まり、洗濯物に付着するケースもあります。

夜間は完全にシャッターを閉め、カメムシの多い秋ごろは外に洗濯物を干さないことをおすすめします。

さらに、カメムシは窓の隙間などから家に侵入するので、窓の隙間がないか確認し、開閉は短時間で済ませるなどの工夫をしましょう。

エアコンのドレンホース(室外機についている排水ホース)からカメムシが侵入する場合もあるので、ドレンホースの先端に排水溝ネットを付けるとより安心です。

カメムシの駆除

予防対策をしてもカメムシが家に侵入してしまうこともあります。

そんな時は、カメムシを叩いたり潰してはいけません。

カメムシは刺激があると悪臭を放つからです。

カメムシを駆除する場合は牛乳パックやペットボトルなどでそっと捕獲し、外に放り出しましょう。

もしくはカメムシ専用の殺虫剤や冷凍殺虫で駆除する方法もあります。

まとめ

カメムシの大量発生と森林についてまとめます。

  • 近年カメムシが大量発生しており、2024年もその兆候がある
  • カメムシの大量発生の原因の1つが、エサとなるスギやヒノキの実の増加である
  • 森林整備不足により成長したスギ・ヒノキが増加している
  • 適切な森林整備はカメムシの大量発生への1つの対策になりうる

カメムシと森林の関係についておわかりいただけたでしょうか。

「森林整備を進めればすぐにカメムシの数が減少する」という単純な話ではありませんが、関係性があることは事実です。

カメムシを厄介に感じている方は、森林・林業について興味をもち、国産木材でできた製品を購入してみたりしてください。

森林・林業分野の発展がめぐりめぐってカメムシ対策にもつながるはずです。

参考資料

農林水産省.「病害虫発生予察情報」.2024年6月5日.https://www.maff.go.jp/j/syouan/syokubo/gaicyu/yosatu/index.html(2024年6月6日取得)

栃木県.「果樹カメムシ類の発生予察注意報の発表について」.2024年5月13日.https://www.pref.tochigi.lg.jp/g0

4/houdou/r5_kamemushi-chuuihou01.html(2024年6月6日取得)

兵庫県立農林水産技術総合センター 病害虫部(兵庫県病害虫防除所)「令和6年度病害虫発生予察防除情報第3号(果樹カメムシ類の発生状況と防除対策)」.https://bojo.hyogo-nourinsuisangc.jp/archives/1084(2024年6月6日取得)

伊丹市昆虫館.「大量発生しているツヤアオカメムシの生態と対策の解説【2023年9月-】」.2024年4月24日.https://www.itakon.com/blog/tyaokmms(2024年6月6日取得)

静岡県農林技術研究所森林・林業研究センター.「害虫カメムシの大発生を予測~スギ・ヒノキ種子や果樹の害虫カメムシ類の発生量とヒノキ球果結実量の関係~」.わかりやすい森林・林業9.2009年3月1日.https://www.pref.shizuoka.jp/res/projects/default_project/_page/001/061/382/kenkyu09.pdf(2024年6月6日取得)

森下正彦・榎本雅夫・小松英雄・中一晃 ・大橋弘和.「スギ花粉飛散数を利用したチャバネアオカメムシとツヤアオカメムシの発生量予測」.日本応用動物昆虫学会誌,2001年45巻第3号p.143-148.https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjaez/45/3/45_3_143/_pdf(2024年6月6日取得)

みんなのマーケット株式会社.くらしのマーケットマガジン.「カメムシ対策に効果的な駆除・侵入防止・悪臭対処法|大量発生に注意」.2024年4月5日.https://curama.jp/pest/magazine/1004/(2024年6月10日取得)

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