ブッシュドノエルのモデルは何の木?
コラム

ブッシュドノエルのモデルは何の木?

ブッシュドノエルのモデルは何の木?

こんにちは。森林テック編集部です。

街はクリスマスで浮足立つ今日この頃。

クリスマスといえば、なんといってもクリスマスケーキですよね。

白い生クリームに真っ赤ないちごをのせたショートケーキも良いですが、丸太の形をした「ブッシュドノエル」もクリスマスらしくて素敵です。

このブッシュドノエル、何の木がモデルになっているかご存じでしょうか?

この記事では、ブッシュドノエルのモデルになった木について、またブッシュドノエルの起源について紹介します。

ブッシュドノエルとは

ブッシュドノエルはロールケーキにチョコレートクリームを塗り、丸太に見立てたケーキです。

フランス語で「クリスマスの薪」という意味です。

フランスの発音だと「ビッシュ・ド・ノエル」の方が近いです。

イギリスでも親しまれており、英語ではユールログ(Yule Log)と言います。

ブッシュドノエルの起源

ブッシュドノエルの起源を調べていたら、以下の情報が見つかりました。

一説には、古く昔キリスト教がフランスに広まる以前、北欧で行われていたとされるユール(冬至祭)と呼ばれた儀式にちなんだケーキであるという説です。

ユールはクリスマスの時期に丸太を何日もかけて焼く儀式で、焼かれた丸太はユールログと呼ばれました。ユールログの灰は翌年の豊作や健康を祝う縁起物とされていたため、この伝統を現在に引き継ぐ形でお菓子として丸太を形取った、とされます。

この他、クリスマスの起源となったキリストの誕生を祝って暖炉に夜通し薪をくべ、何日も燃やし続けたことに由来する、という説もあります。

DELISH KITCHENより:https://delishkitchen.tv/articles/1960

簡単に言うと、以下の2つの説がブッシュドノエルの起源と考えられます。

  • 説1・北欧のユールログが起源
  • 説2・クリスマスの時期に暖炉で薪を燃やしたことが起源

クリスマス≒冬至の時期に何かしらの木を燃やす風習に基づいていると考えられそうです。

説1・ユールログについて

ユールログとは?

ユールログについて調べると、以下の論文が見つかりました。

ユールの習俗としてユールの丸太 YuleLogがある.樫の木は北欧神話の雷神 Thorの化身であると訟われている.そして又ゲルマンの主神Odinが自らを Jolnirとか,或いは Yule-oneと称した事に由来するとも云われている.樫の木はケルトの民族宗教であったドルイド教の祭杷において中心の役目を巣たす木であった.この樫の木が素材のユールの丸太は12月24日の夜に鹿外の林隙地に持ち運ばれて点火され聾火が作られる.

出典:後藤信「季節と祭り―自然及び社会環境の視点からの考察」(2000年)

少し難しいですが、12月24日に運ばれた「ユールの丸太」には「樫の木」が運ばれたということが読み取れます。

ただ、ちょっと気になることがあります。北欧に樫の木は生えているのでしょうか。

カシの分布地域について

樫(カシ)は、ブナ科コナラ属の常緑樹の総称で、日本に分布しているものだとアカガシやシラカシなどがあります。

日本での分布は、宮城県や福島県以南の本州・九州地方が中心です。

北海道や北東北では常緑のカシは分布せず、ブナ科コナラ属のなかでもミズナラなどの落葉樹が分布しています。

「都道府県の木」の記事でも触れましたが、カシなどの常緑広葉樹は温暖な気候に適性があります。

北欧は北海道よりも北に位置します。

常緑であるカシの木は、イタリアやスペインなどの南ヨーロッパには分布しているものの、北欧には分布していません。

それでは、ユールに燃やしたとされる丸太は何の木?

カシの木について調べていると、「歴史をかえた誤訳」という1冊の本に行きつきました。

そこにはこんな記載がありました。

英語にoakという単語がある。オークの家具といえば、がっしりした上質の家具である。この「オーク」は日本語では「樫」と訳されている。(中略)

北海道にある「水楢」という木を見て、ヨーロッパ人が「これは良質のオークだ」といったとのこと。(中略)

つまり、英語の「オーク」は日本の「楢」なのだった。最初にだれかが「樫」と誤訳し、それが長らく定着し、辞書でも踏襲されてきたという。

出典:鳥飼玖美子「歴史をかえた誤訳」

恐らく、ユールログでクリスマスに燃やしたとされる丸太はoak(オーク)で、ナラのことです。

それがカシと誤訳されてしまったと考えられます。

北欧に分布しているナラはヨーロッパナラかフユナラです。

北欧神話に出てくる木、つまりユールログに使う丸太はヨーロッパナラかフユナラだと考えられます。

フランスやドイツでも、オークといえば一般的に落葉樹のナラのことを指します。

説2・暖炉で薪を燃やす風習について

北欧で燃やしていたユールログは「ナラ」という説が濃厚です。

しかし、ブッシュドノエルはフランスのお菓子です。

ユールログはどのように過程でブッシュドノエルへと形を変えるのでしょうか。

先ほど引用した論文から、以下の記載が見つかりました。

その後,人々の生活様式は変わってゆく.暖暖房方式も炉床から鋳鉄製のストーブへと移行する過程で丸太のサイズも小きくなる.吏に石油ボイラーによるセントラルヒーティングの施設の盤いつつある今日ではその姿を消すことになる.ユールロッグは柊や蕎織の糖衣の装飾の付いたロールケーキとなって,生まれ変わった姿でクリスマスの食卓に置かれている.

出典:後藤信「季節と祭り―自然及び社会環境の視点からの考察」(2000年)

北欧のユールログの習慣がフランスに伝わる過程で、クリスマスに暖炉で薪を燃やす習慣に形を変えたと考えられます。

フランスで使われる薪は何の木でしょうか。

フランスで一般的な樹木について調べたら、以下の記載が見つかりました。

フランスの大都市圏の森林は、国土の 3 分の 1 弱の 17,100,000ha を占めている。ヨーロッパの近隣諸国と比較して非常に多様な森林であり、70 にグループ化された 190 種が生息し、そのうち 13 種の木材が立木量の 82%を占めている。森林面積の 3 分の 2 は主に落葉樹(オーク、ブナ)である。

出典:パリ協定下の森林吸収量算定にかかる技術的課題の分析・検討https://www.rinya.maff.go.jp/j/sin_riyou/ondanka/attach/pdf/ondanka_zigyo-31.pdf

フランスの森林ではオーク(ナラ)やブナの割合が高く、薪としても適正があることからクリスマスの薪として使われていると考えるのも自然です。

*フランスに分布するオークは、主にヨーロッパナラやフユナラです。

さらに調べると、りんご園さんのホームページからこんな記載が見つかりました。

フランスのある地方ではクリスマスの夜、秋から用意していた大きな大きな薪を暖炉にくべて、1月1日まで燃やし続けるという習慣があったそうです。
長く燃やし続けなければいけないことから、火持ちのよいりんごの薪が特に好まれたと言います。

出典:ささき林檎園ホームページ https://www.sasakiapple.com/wood

なんと、りんごの薪が使われていたとは。

ブッシュドノエルのモデルになった木は、ナラやブナ、リンゴの木の可能性が高いと考えられそうです。

まとめ

ブッシュドノエルのモデルになった木は、特定の木だと断言はできませんが、ナラやブナ、リンゴである可能性が高いです。

オーク(ナラ)は神話にも度々登場するほど、古くからヨーロッパの人々にとって身近な樹木でした。

日本にある木では、コナラやミズナラが最もヨーロッパナラ・フユナラに近いです。

ブッシュドノエルを手作りされる際は、ぜひ身近なコナラやミズナラをよく観察してみてください。

また、「りんごの木」がモデルというのは何とも意外です。

ブッシュドノエルにいちごではなくりんごを添えてみるのも一興ですね。

※あくまで森林テック編集部の考察であり、実際のところは定かではありません。

参考資料

株式会社エブリー.「ブッシュドノエルの意味とは?レシピもご紹介」.DELISH KITCHEN.2022年11月28日.https://delishkitchen.tv/articles/1960(2023.12.19取得)

後藤信.「季節と祭り―自然及び社会環境の視点からの考察」.社会情報学研究.2000年,vol.6,185-205.

鳥飼玖美子.「歴史をかえた誤訳」.株式会社新潮社,2004,p158-159

林野庁.「令和 4 年度森林吸収源インベントリ情報整備事業(パリ協定下の森林吸収量算定にかかる技術的課題の分析・検討)」.林野庁.2023年3月.https://www.rinya.maff.go.jp/j/sin_riyou/ondanka/attach/pdf/ondanka_zigyo-31.pdf(2023年12月21日取得)

ささき林檎園.「青森県産りんごの薪」.ささき林檎園.日付不明.https://www.sasakiapple.com/wood(2023年12月21日取得)