テクノロジーで花粉発生源対策!無花粉スギの最新情報をお届け
コラム

テクノロジーで花粉発生源対策!無花粉スギの最新情報をお届け

国民の約3人に1人が花粉症と言われている現在、林業・森林管理において花粉発生源対策は重要な取り組みです。

林野庁が公表している主な花粉発生源対策は以下の3つです。

  • 人工林の伐採・利用の促進
  • 花粉の少ない苗木等への植え替え
  • 花粉飛散防止剤の実用化

この記事では、無花粉スギや少花粉スギなどの花粉の少ない苗木について解説します。

森林を保有している方、林業従事者が具体的に花粉の少ない苗木を活用する手助けになれば幸いです。

花粉の少ない苗木とは

国立研究開発法人 森林研究・整備機構を中心に、花粉の少ないスギ・ヒノキの品種開発が進んでいます。

花粉の少ない品種にも以下のような区分があります。

花粉症対策苗木(スギ)とは次のものを指します。
無花粉品種 花粉が全く生産されないものです。
少花粉品種 花粉生産量は一般的なものに比べ、約1%以下のものです。
低花粉品種 一般的なものに比べ、花粉の生産量が相当量低い(約20%以下)ものです。

出典:全国森林組合連合会HP

2022年度(令和4年度)末までに開発された品種は以下の通りです。

  • 無花粉品種【スギ】:24種
  • 少花粉品種【スギ】:147種
  • 少花粉品種【ヒノキ】:55種
  • 低花粉品種【スギ】:16種

※無花粉遺伝子を有するスギ品種:2種

参照:国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所 林木育種センター「花粉症対策品種一覧(令和4年度末現在)」

スギの少花粉品種が最も多く開発されています。

これらの品種は東北・関東・関西・九州と、幅広い地域から発見・開発されています。

まだ発見されていない無花粉・少花粉品種が全国に分布していると考えられています。

無花粉スギのメカニズム

無花粉スギは、花粉ができる過程に異常があるために花粉が飛散しない性質があります。

この性質を雄性不稔(ゆうせいふねん)と呼びます。

正常な雄花と比較して分かるように、無花粉スギの雄花には花粉が形成されていません。

無花粉スギの雄花
正常な花粉の雄花

画像参照:新潟県HP

最新の研究では、無花粉スギの原因遺伝子も明らかになっています。

無花粉スギの苗木を生産する際にMS1と呼ばれる遺伝子が活用されてきましたが、2023年に新たな原因遺伝子が特定されたことが公開されました。

以下、公開された論文より引用です。

国⽴研究開発法⼈森林研究・整備機構森林総合研究所、新潟⼤学、東京⼤学⼤学院新領域創成科学研究科、基礎⽣物学研究所、新潟県森林研究所の研究グループは、無花粉スギの原因遺伝⼦MS4を特定しました。⼈⼯交配によって作製したスギ集団を⽤いた遺伝分析とスギ参照ゲノム配列を活⽤して候補となる遺伝⼦を絞り込みました。得られた候補遺伝⼦が花粉⽣産に関わることをモデル植物のシロイヌナズナを⽤いて検証することに成功しました。MS4は、花粉壁の⽣成に関わる酵素(TKPR1)を合成する遺伝⼦であり、この遺伝⼦のわずか1つの塩基が変異することで無花粉になることが明らかになりました。

新潟大学HP:https://www.niigata-u.ac.jp/wp-content/uploads/2023/08/230830rs.pdf

論文URL:https://academic.oup.com/pnasnexus/article/2/8/pgad236/7236422

この研究で新たな原因遺伝子が明らかになり、無花粉スギの苗木の生産が進むことが考えられます。

代表的な無花粉スギ

様々な花粉の少ない品種が開発されていますが、やはり気になるのは全く花粉が生産されない「無花粉スギ」。

代表的な無花粉スギの品種を2つ紹介します。

立山 森の輝き

「立山 森の輝き」は富山県が開発した無花粉スギです。

1992年、研究員が富山市内の神社で花粉を作らないスギを偶然発見し、「はるよこい」が無花粉スギとして全国で初めて品種登録されました。

「はるよこい」と成長の段階や・材質が優れた精鋭樹(エリートツリー)を掛け合わせて開発されたのが「立木 森の輝き」です。

全く花粉を出さないことに加え、材としての強度や雪害抵抗性も兼ね備えた優れた品種です。

富山県では「立山 森の輝き」の植栽支援や県外への出荷など、積極的な普及活動を行っています。

画像参照:富山県HP

爽春

「爽春」は茨城県の森林総合研究所林木育種センターより開発された無花粉スギです。

2008年に品種登録されました。

もともと気象害抵抗性候補木の中から選抜されたという経緯があり、寒さにも強いのが特長です。

現在、爽春と精英樹(エリートツリー)を掛け合わせ、より成長に優れた「林育不稔1号」 「林育不稔2号」が開発されています。

無花粉スギ「爽春」
画像参照:農林水産技術会議HP

購入場所や補助金の活用は?

花粉の少ない品種の苗は、通常の苗木と同じように種苗会社や種苗組合から購入可能です。

例えば、以下の組合・企業で取り扱いがあります。

無花粉スギは通常のスギの苗と比べて、価格は高い傾向があります。

新潟県森林組合連合会の価格表によると、通常のスギ苗が148円なのに対し、同じ苗齢2の無花粉スギの苗は320円と約2倍の価格となっています。

(参照:新潟県森林組合連合会 「令和2年度 山行用苗木価格表」

自治体や団体が花粉の少ない苗の植栽などに対し、補助金・助成金を支援している場合がありますので、可能な場合は活用しましょう。

令和6年度 緑の募金 特別公募事業「スギ等森林の有効活用支援事業」

無花粉・少花粉スギへの植え替えや管理などを行う事業に対して、審査を通過すると年間200万円を上限に交付されます。

2024年(令和6年)の締め切りは3月15日(金)24:00までになっているのでお早めにご確認ください。

参照URL:https://epo-cg.jp/blog/240315sugisinrin/

林野庁でも花粉症対策苗木への転換を促進するために例年予算が割り当てられています。

植え替えを検討している場合、一度所属する自治体に確認してみましょう。

まとめ

無花粉スギをはじめ、花粉の少ない苗木に関するテクノロジーは毎年更新されています。

それが普及するには、国産材の利用促進や人手不足の解消など、様々な要素が必要になります。

複雑な課題ですが、国民病ともいえる花粉症の緩和のカギを握っているのは森林保有者・林業事業者の方々とも言えます。

再造林の際には花粉の少ない苗木を選ぶなど、できることがから始めてみてはいかがでしょうか。

参考資料

全国森林組合連合会.「花粉症対策苗木安定供給事業:花粉症対策苗木(スギ)とは?」.http://www.zenmori.org/shiryou/kafun/question.html(2024.3.7取得)

国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所 林木育種センター「花粉症対策品種一覧(令和4年度末現在)」.https://www.ffpri.affrc.go.jp/ftbc/business/sinhijnnsyu/kafunsyotaisaku/documents/kafunichiran.pdf(2024.3.7取得)

新潟県.「無花粉スギ」.https://www.pref.niigata.lg.jp/sec/chisan/1356883234891.html(2024.3.5取得)

新潟大学.「無花粉スギの原因遺伝⼦を新たに特定-花粉症対策を加速-」.https://www.niigata-u.ac.jp/wp-content/uploads/2023/08/230830rs.pdf(2024.3.7取得)

富山県.「優良無花粉スギ「立山 森の輝き」普及推進事業」.https://www.pref.toyama.jp/1603/kendodukuri/shinrinkasen/shinrin/moridukuri/jigyou/mukafun.html(2024.3.7取得)

農林水産技術会議.「国内における研究開発事例を紹介します!(国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所 森林バイオ研究センター編)」.https://www.affrc.maff.go.jp/docs/anzenka/genom_syuzai2021/page4.html(2023.3.7取得)

神奈川県山林種苗協同組合.「苗木の紹介」.https://sanrin-shubyo.org/tree/(2023.3.7取得)

カネコグリーンファーム.(TOPページ).http://www.kanekogreen.com/(2023.3.7取得)

新潟県森林組合連合会 「令和2年度 山行用苗木価格表」.http://www.niigata-moriren.or.jp/wp-content/uploads/2020/02/02-1_R2年度%E3%80%80山行用苗木価格.pdf(2023.3.7取得)

環境省中国環境パートナーシップオフィス(EPOちゅうごく)「令和6年度 緑の募金 特別公募事業『スギ等森林の有効活用支援事業』(3/15締切・全国)」.https://epo-cg.jp/blog/240315sugisinrin/(2023.3.7取得)