近年、林業における作業の効率化から「一貫作業システム」に注目が集まっています。
伐採から植栽までを効率的に行えるとあって、多くの事業体が作業に取り入れています。
しかし、「どのような作業工程で行われるのか」「一貫作業システムで得られるメリットとデメリットは何?」など、疑問点のある方も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、一貫作業システムの概要から作業の流れ、メリット・デメリットを解説します。
一貫作業システムを使った実例も紹介しますので、ぜひ最後まで読んでみてください。
目次
一貫作業システムとは?
一貫作業システムとは、再造林におけるコストを抑える目的によって行われる、伐採と植栽を一体的に作業するシステムのことをいいます。
出典:関東森林管理局 茨城森林管理署 森林技術・支援センター 国立研究開発法人 森林総合研究所「一貫作業システムマニュアル」
一般的には、皆伐作業(林地に立っている木をすべて切ること)を行いながら、現場にある重機を用いて植栽の準備もしていきます。
木材搬出と苗木の運搬を並行的に行うため、植栽までのコストを抑えられます。
伐採作業から植栽作業まで、同じ作業者である場合が多いのも特徴です。
そのため、一貫作業システムであれば、のちの植栽作業のことを考えた路網の作設が可能になります。
一貫作業システムの流れ
一貫作業システムは以下の流れで行われます。
- 伐採作業
- 地拵え作業
- 運搬作業
- 植付作業
ときに作業が前後しながら効率よく植付作業まで進められます。
それぞれの作業について詳しく見ていきましょう。
伐採作業
一貫作業システムにおける伐採作業は、基本的に皆伐が行われます。
皆伐作業の工程の1つである造材作業で心がけたいポイントは、なるべく同一箇所で作業を行うことです。
同一箇所で作業することで、造材時に出る枝葉をひとまとめにできます。
そのためには、木寄せ作業を丁寧に行い、伐採した木を1箇所に集めることが重要です。
その結果、のちの地拵え作業の負担が少なくなったり、植栽可能な面積を増やしたりすることにつながります。
地拵え作業
一貫作業システムで行われる地拵えは、伐採作業で使った重機を使います。
基本的には重機のアームの届く範囲が地拵えの作業範囲です。
そのため、重機を用いて作業できないところは人力での地拵えになります。
重機で地拵えを済ませた方が作業効率は上がるため、なるべく重機の作業範囲内で地拵えが完了するように作業道の配置を工夫します。
運搬作業
ハーベスタなどで造材した丸太は、運搬車によってトラックが進入できる山土場まで運ばれます。
荷下ろし後、作業現場に戻る際は植栽に必要な苗木を運搬車に詰め込み、往復で荷物を運搬する体制をとります。
運搬車をフル活用し無駄な作業を省くことで、作業の効率化が可能です。
ただし、苗木は乾燥に弱いため、運搬後にすぐに植え付けできる体制が整ってから運搬を始めるようにします。
植付作業
丸太の運搬と並行して作業現場へ運び込まれた苗木を使って植栽を行っていきます。
植え付け作業は、伐採搬出作業がすべて終わってから始める必要はありません。
周囲の安全が確保された状態であれば、植栽作業は可能です。
例えば、雨降りが続いて搬出作業を行うと作業道の傷みが心配されるときは、植え付け作業を行うことも良いアイデアといえます。
雨によって苗木の根付きもよくなり、作業道も傷まないため、双方にとってメリットがあります。
一貫作業システムで得られるメリット
一貫作業システムで得られるメリットは以下のようなものが挙げられます。
- 植栽作業の効率化
- 植栽用の運搬車の手配が不要
- 地拵え作業での労働災害防止
メリットの1つは作業の効率化です。
作業場内にある重機を地拵えや苗木運搬の作業に使うことで、人力作業よりも効率的な作業ができます。
もう1つのメリットとして、苗木運搬用の運搬車を改めて手配する必要がなくなることが挙げられます。
植栽のみの作業となった場合、運搬車は別途に用意する必要がありますが、一貫作業システムであれば伐採搬出の際に使った運搬車が利用できます。
また、一貫作業システムは、人力作業で行う地拵えの労働災害防止にもつながります。
一貫作業システムの場合は、重機によって地拵え作業ができなかったところを人力で地拵えするため、作業範囲はすべて刈るよりもはるかに小面積です。
そのため、人力の地拵えによる労働災害は発生しにくくなります。
一貫作業システムを行うことのデメリット
一貫作業システムを行うことでのデメリットは以下のようなものが挙げられます。
- 裸苗の植栽には向いていない
- 重機の導入コストがかかる
一貫作業システムの地拵え作業は、基本的に重機が使われます。
そのため、人力で地拵えするよりは柴などが残ってしまう場合が多い作業システムです。
柴の合間を縫って苗木を植えようとすると、植え付けに向いているのはコンテナ苗です。
裸苗を植えようとすると、しっかりと柴を除去しスペースを確保する必要があります。
重機の導入コストがかかる点も一貫作業システムのデメリットです。
一般的に、林業で使う重機を新調するとなると、1千万円を超えてくるのが現状です。
一貫作業システムを成り立たせるには重機が数台必要なため、簡単には手を出せないでしょう。
一貫作業システムの実例紹介
一貫作業システムの実例を紹介していきます。
兵庫県の森林林業技術センターで行われた一貫作業システムでは、植栽に必要な労働力を従来の72%まで縮めることに成功しています。
経費も30%軽減できたとのことです。
コスト削減の要因は、コンテナ苗を利用して低密度に植栽したことが挙げられます。
出典:兵庫県立農林水産技術総合センター森林林業技術センター「伐採と造林の一貫作業による低コスト再造林」
もう1つの実例である長野県林業総合センターでは、地拵えのコストを半分以下にすることに成功しています。
バケットによる自拵えを取り入れたことで、植栽後に支障となる下層植物の除去が成功の大きな要因となっています。
出典:長野県林業総合センター育林部 大矢信次郎「−貫作業システムで再造林を低コストにー機械地拵えを軸にした低コスト再造林−」
どちらの実例もコストの大幅な削減に成功していて、これからの林業に欠かせない作業システムであることを示しています。
まとめ
一貫作業システムは植栽作業の効率化だけでなく、地拵え作業による労働災害防止の観点からも優れた作業システムです。
重機を揃える必要がある点はネックですが、取り入れられれば大きな成果が期待できます。
実例でも紹介したように、一貫作業システムは多くの成功実例があり、再現性の高い作業システムです。
ノウハウなどが共有され、一貫作業システムによって再造林がより進むことが期待されます。
本記事が一貫作業システムを知る機会になってもらえれば幸いです。
参考文献
兵庫県立農林水産技術総合センター森林林業技術センター.「伐採と造林の一貫作業による低コスト再造林」.https://hyogo-nourinsuisangc.jp/18-panel/pdf/2019/19.pdf(2024.3.22取得)
長野県林業総合センター.「一貫作業システムで再造林を低コストにー機械地拵えを軸にした低コスト再造林ー」.https://www.pref.nagano.lg.jp/ringyosogo/soshiki/documents/2022system.pdf(2024.3.22取得)
林野庁.「下刈り作業省力化の手引き」.2023年3月.https://www.rinya.maff.go.jp/j/kanbatu/houkokusho/attach/pdf/syokusai-17.pdf(20024.3.26取得)